散歩
大学一年生の時住んでいたマンションは駅から徒歩30分の距離にあった。
そのため、通学はもちろん飲み会の解散時間も早朝アルバイトの開始時刻も常に意識して過ごしていた。
簡単に言うととても大変だった。
引っ越して駅から徒歩5分の距離になった。
飲み会の解散時間は気にする必要がなくなり、睡眠時間も増えた。
買い物もしやすくなり、映画のレイトショーも観れるようになった。
すごく生活が楽になった。
でも、私は正直引っ越す前の方が充実した生活を送っていたように思っている。
その理由が徒歩30分にあった。
徒歩というのは厄介なところがある。
本は読めないしスマホもいじれない。もちろん眠ることもできない。
徒歩30分は何もできない30分だった。
当時はそれを嫌だと思っていた。
勉強したいし友だちとLINEしたいしその貴重な時間を奪われるのは苦痛だった。
でも何もできない30分はなにもしなくていい30分と言い換えることもできるのだ。
勉強もしなくていい、LINEもしなくていい30分。
何て贅沢な時間だろうか。
代わりに家で時間を作ればいいと言われればそうなのだけれども、私の性格的にそれは許されない。
30分無意味に過ごすのはいけないことのように思える。時間があれば埋めたくなる、そんな性格だ。
だからこの30分は貴重なのだ。
私はその30分で色々なことをした。
音楽を聴き、ドラマCDを聴き、かるたのうまい取り方を考え、季節の変わりを匂いで感じた。
すごく人間らしい生活をしていた。
今度引っ越すときはまた、徒歩30分のところに住もうかしら。
そんなことを思う平日のお昼過ぎでした。